屑男
もう分かりきったことだが、今週も何も改善しなかった。
便の状態、膨満感の波と全く連動していない。
分かってる。もうお前には何も期待してない。
最近自席から喫煙所迄の間に自分の姿を正面から照らすガラスがあることに気づいた。
恐る恐る自分の姿を確認するも、
ありえねー…。
ふざけているとしか見えないだろうな…。
会社の自席で数時間過ごしただけなのに、身体が右へ大きく傾いている。いや、通勤時からそのくらい傾いているのかもしれないが…。
職場には杖をついている人がいるが、自分より遥かに安定している。
身体が右へ傾く癖はもう自覚できているので、何とか左へ傾けようとするのだが、何かに引っ張られてすぐにまた右へ引き戻される。
どこかに痛みがあったり、明らかな筋力不足があるなら理解出来るが、そんな痛みはないし、筋力の出力が正常だと言うことは病院やその他数々の整体、整骨院で確認している。
それなのに、何かに引っ張られて真っ直ぐ歩けない。
更に、帰宅時、右へ引っ張られないように左へ傾けると、今度は突然左後ろから強力な引力が働いて、壁にぶつかることが度々発生する。
制御がとてつもなく難しい。
バランスをとるだけで精一杯。
酔っぱらいよりも安定感がない。
それなのに、原因が全く分からない。
内臓が原因なら、さっさと数値に現れたり、症状が出てもらった方が助かるのだが、全くそんな気配もない。
ただただ、バランスをキープするための無駄な筋肉と、左肩が痛むだけだ。
今週も原因を掴もうと毎日歩いてみたが、全く掴めない。
残ったのは絶望のみ。
颯爽と歩く人、夏休みを楽しむ子供達、楽しそうに飲み会に向かう人、旅行の計画をたてる人…
スポーツに励む人、ランニングする人…。
いや、普通に買い物している主婦、普通に駅のホームを歩く人…。
そんなごく普通の人達を見ているうちに、孤独に苛まれ、ついつい自分の人生を呪った。
もう自分には、普通の人達のように、普通の当たり前な生活を送ることが出来ない。
「何で俺だけ」
時折怒りが込み上げて、大股で歩こうとすると、まるで肩透かしを食らったかのように今度はびっこひきが強くなる。まるでエンストを繰り返す車のように…。
週の後半は怒る気力すら無くなった。
「死ね、死ね、死ね…。」
一歩一歩、こころの中でそう呟きながら歩いた。
昨日は急に右折しようとするタクシーにぶつかりそうになった。
キッと運転手を睨み付けた。
タクシーはスピードを緩めるも、そのまま行ってしまった。
屑野郎。
車という凶器で脅すだけで、人を引き殺すこともしない。
そして再び「死ね、死ね」と呟きながら、何の目的もなく歩く。
右から、かと思えば左後ろから働く強力な引力に逆らいながら歩く内、目が回って吐き気にもよおされた。
橋の上から遠く海の方を眺めた。
工事や発電所の光がポツポツと点滅している。
何なんだ?この人生。
何なんだ?この世界。
屑ばかりだ。
そして屑を嘆くだけで、己を殺すことも出来ないお前。お前こそが屑だ。