壮大な罰ゲーム

左足が着いたあと、左の骨盤の上がりが異様に早い。

同時に上半身も傾く。

 

「悪い動きを続けたために、筋肉の回路が間違った動きを記憶してしまった…」

 

そう思った瞬間、とてつもない喪失感と虚無感に襲われた。

 

「二度とまっすぐ歩けない」

「二度と大会に出られない」

「一生びっこひき」

 

もう生きている意味がない。

 

休職中、気持ちを立て直してくれたのはランニングだった。

あのとき、ランニングのお陰で生きる希望を取り戻した。

 

ランニング出来なくなったら死ねばいい。

 

本気でそう思っていた。

 

それからたった数年で現実になるとは…。

 

頭が痛くなった。

死ぬことを意識すると、落ち着く自分がいた。

 

何故生きるのか。

何故死んではいけないのか。

今死ぬのは勿体無いのか。

今死なないのは勿体なくないのか。

病気で死ぬのはよくて、頭で死ぬのは何故ダメなのか。

 

 

そんなことを考えながら、ぼっーとスーパーで買い物をしていたとき、ある男が目に入った。

身なりのあまり良くなさそうな男。

財布の中身を確認している。

 

理不尽。

 

理不尽だらけな世の中。

 

喜びも楽しみもとことん奪われる現実。

新しい生き甲斐を見つけないお前が悪いと言わんばかりの現実。

頑張らないお前が悪いと言わんばかりの現実。

 

顔、かたち、能力、環境、すべてが自分の意図では決められない。

勝手に決められた配役を演じ、勝手に決められた運命に翻弄され、悲しみ、憎み…一体俺は何をしているのだろう。

 

感情をもった人間は最も愚かな生き物だと思った。